私はフリーランスでWeb制作系の仕事をしており、SNSでぼちぼち情報収集をしているのだが、そのせいかやたらWeb系スクールの広告が出てくる。それも同じところのうさんくさいものばかり。
「憧れの『カフェで仕事してる人』になれた」だの、「フリーランスになって、好きな時間にちょっと仕事して後は自由時間♪」だの……前者は機密情報ダダ漏れのセキュリティ意識低すぎマンで論外だし、後者はスクールに通うだけで得られるものではない。営業力・狡猾さ・コネなど、制作以外の「生き抜くスキル」が必須なのである。

もちろん、「実家が太い・パートナーが稼いでいるので自分はお小遣い程度で良い」というくらいであれば、小さな仕事をポツポツ取るくらいで良い。それでもフリーランスを名乗ることはできる。
しかし、それで食べていくレベルとなれば話は別だ。私は特定の会社の業務委託でフルタイム稼働、時々別途依頼を受けて時間外や休日に仕事をしているというスタイルなので収入は安定している(それでも社員と違って簡単に契約解除できるので、使えないと判断されれば切られる)が、毎回同等の収入が得られる仕事を自力で取ってくるのは、よほどの運とコネと実力がない限り難しい。運良く「リテラシーが低く相場がわかっていないがやたら金払いの良い、税金で成り立っている職種の」クライアントから「直に」仕事を取れれば、2ヶ月程度で2年ほど食べられる収入が得られるが、そんな仕事はクラウドソーシングなどでは得られない。
仮に依頼元がそうでも、ほとんどが手元に来る頃には「孫孫孫孫孫請け」でアホみたいに依頼料が安くなっているものである。大手のサイトやシステムにクオリティの低いものが見られるのは、コネだけで「うちが作りますと言いながら実は作れない会社」が取るだけ取って下請けに出しまくった結果、最終的にスキルのない会社やフリーランスが安値で請けることになり、クオリティの低いものが上がってくるせいである。どの業界でもそんなものかもしれないが、このクソみたいな仕組みがWeb業界では未だに横行しているのだ。

さて、話がずれてしまったが。
私がよく見るスクールは、メインターゲットが女性であり、広告を見る限り副業ではなく「食べていくレベル」の方である。そして内容は冒頭の通り、実に品がないというか、「デザイナーってなんかおしゃれだし、好きな時に何時間か仕事してあとは旅行行き放題!しかも手に職なんていいじゃん!」という「キラキラした面しか見ない層」を狙っていると考えられる。
もちろん前述のように、実家やパートナーなどのメインとなる収入がある・よほどの運と(略)がある場合はそんな生活もできるだろうが、一人でもやっていけるレベルの技術を得たいのであれば、少なくとも「Webの世界はちょろい」と思わせる広告を打つようなスクールは避けるべきだ。

このスクールと他のスクールのサイトを比較してみたが、とにかくツッコミどころが多い。

1️⃣公式SNSの投稿が怪しい
広告系のアカウントによく見られるが、架空の人物でアカウントをいくつも作成している。しかもデザイナーに役立つような知識を共有するわけではなく、ひたすら自己啓発系の内容だ。
そして生徒と思われる人々のアカウントでは、似たような自己啓発投稿や生徒同士の交流会の様子などが見られ、本来の目的がまるで見えない。「頑張っている自分が好き」と酔っている人々のコミュニケーションが主体になっているような、宗教じみたものを感じる。
また、公式SNSのプロフィールには公式サイトやLPへのリンクが一切なく、LINE相談や関連アカウントへの導線しかない。言い方は悪いが、「いかに詳細を見せず、広告を見た勢いで相談しに来るバカを釣るか」と言わんばかりの手法である。

2️⃣運営会社に現場の知識・経験のある人間がいそうにない
運営会社のサイトを見る限り、恐らくデザイナーもエンジニアもいない。それこそ孫孫孫孫……請けの原因となる典型的な元請け会社だ。
自社サイトもサービスサイトも恐らく外注。講師紹介などもないことから、クラウドソーシング辺りで安く雇った人材である可能性がある。現場を知らない人たちが運営しているのだから、公式サイトの情報が曖昧(後述)なのも、SNSでノウハウを発信できないのも納得である。

3️⃣公式サイトに料金表示がない・やたら高い
なぜかLPにはある。しかし、某質問サイトにあった料金の質問に対し、答えになっていないサクラと思しき回答しかなかったのが引っかかる。
確認したところ、プランにもよるが、他のしっかりしたスクールより一月あたり数万ほど高かった。もちろん内容やサポートの差も大きいと思われる(後述)。

4️⃣公式サイトに具体的な内容・ツール・言語の記載がない
「パソコンとネット環境さえあれば良い」というのは、一見とっつきやすいように思えるが、プロになりたい人にとってはかえって不親切である。他にツール関連で記載されていたのは「チャットツールとオンライン会議ツール」ってそうじゃねぇーーー!!!
LPにその辺りの記載はあるが、あくまで「使うツールはこれで、こういうカテゴリの案件を想定したコースです!以上!」のみで詳細はない。結局「まずは相談しろ」である。

5️⃣とにかく公式サイトの内容がグダグダ
コース詳細にはデザイナー向けの内容しか書かれていないのに、なぜか元生徒にエンジニアがいる。他にコースがあるのかと思って探すと、わかりづらい場所にこっそり置いてあるリンクから行けるページに、何やら別のカリキュラムの紹介があった。しかしそちらもふわっとしていて具体性がない。

6️⃣LPのコーディングコースの名前が謎
SEOコースはわかる、デザインコースもわかる。なのになぜ、コーディングコースだけ謎の名前なのか。特徴的なので伏せるが「会社勤務用コース」といったところだ。
当然だが、コーディング=会社勤務に特化したスキルではない。これこそ現場を知らない何よりの証拠ではないかと思う。

7️⃣インタビューで察することができる
公式サイトにある元生徒のインタビューには、Web制作とは関係のないライティングなどがちらほら見られる。上記の「突然出てきたエンジニア」同様、公式にはデザインコースの内容しか書かれていないので、「なんで?」となる。
LPによるとライティングコースは存在するが、デザインコースとはまた別だ。その人が両方のコースを取ったのか、ついでにライティングの仕事も取ってみたのかは知らないが、その辺りの記載がない。
また、稼いだ額は副業としては十分だろうが、それだけで生活するのは厳しいレベルだし、どのくらいの期間で稼いだかの記載もやはりない。重要なのは、倍くらいは稼げるようになり、かつそれを継続しなければならないということだ。しかしスクールとしては、最初だけ協力会社やクラウドソーシングからちょこちょこ仕事を取らせ、最初はこんなもんですよと言い、はい卒業ですその後はもう知りません、自分で頑張ってくださいねと言えば済んでしまうわけだ。
ちなみに他のスクールでは、受講者は無期限で仕事紹介システムを利用できるようになっていたりする。そこからどの程度仕事が取れるかはわからないにしても、何より心強いサポートである。

他にも「自社サイトの写真や代表のSNSアカウントで色々と察した」などもあるが、この辺りにしておく。

もちろん想像でしかない。想像でしかないが、これらの情報を踏まえると、「自分たちに知識がないので講師がちゃんと教えられているかどうかはわからないが、生徒もリテラシーが極端に低い人しかいないのでバレない」という地獄絵図になっているのではと思ってしまう。
自社サイトもそうだが、とにかく情報が少なくふわっとしたことしか書かれておらず、耳触りの良い言葉で大事なことをごまかして隠している、そういう体質の企業・サービスだと感じた。
まあ、生徒もそれで幸せなら良いのかもしれないが、実際イージーモードな感覚で業務委託として入ってきて「もっと気楽にできると思っていたのに」とすぐ辞めていく人もいるので、こちらも地味に迷惑している。いくら広告でも、ファッション感覚でできる仕事のように扱うのはやめていただきたいものだ。

フリーランスと言えば聞こえは良いが、広告のような誰もが憧れる生活を手に入れている人はほんの一握りだ。私も自力で仕事を取っていた時期があるが、会社勤務の方がその必要性も顧客との折衝もない分、遥かに楽だと思っている。もちろん、それがあまりに向かないために業務委託というスタイルを取っているのだが、キャリアの半分は会社勤務だ。
フリーランスを目指す人には、まず自分が「営業・顧客折衝・制作のすべてが楽しい」と思える人間であるかどうか、タチの悪い顧客に当たってもストレスを溜めずに上手くやれる・もしくは上手く切れる覚悟や自信があるか、その辺りを考えてみてほしいと思う。
元請けまみれのクラウドソーシングなどは「運が良ければまともな顧客に出会える」くらいに思っていた方が良い。同じクオリティであれば当然価格重視になるので、それなりにクオリティの高いものを出しても、顧客は安値を提示した方を選ぶ(だから顧客も調子に乗るという悪循環なのだが)。「お前ら実績が欲しいんだろ、このくらい無料でやれよ」などと言ってきたり、修正に追加料金がかかると言えば「ふざけるな、東京で仕事を取るのは大変なんだからな!(=こっちの取り分がなくなるから無料でやれ)」と突然キレだすような信じられない顧客もいる(体験談)。
それを知ってか知らずか、変に夢だけを見させて搾取する企業とそのやり方に辟易し、この記事を書いた。別に「多くの人の目に触れて被害者を減らしたい」などと殊勝なことを考えているわけではないが、世の中は自分が思っている以上に厳しく汚いという一つの例を、ネットの海に放流しておきたいと思う。

送信中です

×
この記事をシェア: